「いやー懐かしいですね」「香ばしくて、さっくりしていておいしいですね」ハイキングに来た老夫婦が、お土産に買ったものをパクつきながらイキイキと話をしている。
食べているのは、二上山の山麓にある道の駅「當麻の家」(當麻町新在家)で作っている「小麦餅」である。
田植えが終わって田の神様にお供えしたと言われる昔ながらの「ハゲッショ(半夏至)餅」「サナブリ餅」を、「當麻の家」では「けはや餅」と名づけて、毎日限定販売していて好評。
季節はちょうそ梅雨どきの今じぶん。雨が降ると「きもいりさん(伝達する人」が「きょうはええ雨が降りましたよってに、雨よろこびだっせ!」と喜びふれて回り、その日はアスビ(農休日)となった。
水不足に悩んだ大和ならではの風習であった。ハゲッショウ(半夏至=はんげしょう)という昔からの行事が今も大和に残っていて、田植えが終わったあとの水の恵みと、その年のヨンナカ(豊作)
を祈って、蛸(たこ)や小麦餅を食べたというのである。
文献によると、半夏は「からすびしゃく」という植物の別名で、半夏至とはそれが生える時期とあり、梅雨は半夏至にあがるとも。陽暦の7月2日がその日である。
半夏至に蛸を食べるのは、蛸のように大地に吸い付き、その足のように稲の広がりを願うという縁起を担ぐため。この時期の麦刈り時に穫れるものをムギワラタコといい、一番おいしい。
関西では「ハゲタコ(半夏蛸)」と称して好んで食べたものである。
「ハゲッショ餅」は小麦と餅米で作った餅に、まめの粉(きな粉)をまぶす。「當麻の家」を運営する当麻町特産加工組合のグループの人に「けはや餅」の由来を聞いてみた。
「ここは當麻の“けはや”の故郷でっしゃろ、そやさかい何でも“けはや”が付くんですわ」「それから小麦が入ってますよって、コバしい(香ばしい)し、サクイので胃にもたれへんのですわ」
というわけで、健康にもよさそう。
若い人に人気がある所以(ゆえん)である。当麻町史の伝承文化にも、サナブリやハゲッショには小麦餅を作り、旬の蛸はトッキョリ(晴れの日のごっつお)であったと
記されている。「ハゲタコ」に「ハゲッショ餅」。
梅雨どきの健康にうまいものあり。家族そろって昔ながらの週間に親しみながら、梅雨の1日の食卓をにぎわせてみるのも趣がある。
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