奈良の食文化研究会
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サンケイ新聞「年末年始は奈良の郷土食で<下>」

2015年12月12日(土)
3日間連載で、当会の郷土食が紹介されました。

年末年始は郷土料理で-下-「柿なます」と「大和雑煮」

「柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺」。正岡子規の有名な俳句にも登場する柿。民家の軒先から顔を出す鈴なりの濃いオレンジ色の実は、晩秋の古都の景色に彩りを添えてくれる。
奈良では古く彼、おせち料理の一品である紅白なますに、渋柿を刻んで入れた「柿なます」が食べられてきた。奈良市の「わかばね調理専門学校」で、日本料理を生徒に教える田中賀洋子校長(66)は、「高級品だった砂糖の代わりに、渋柿の甘味を生かそうと、昔の人が考え出した郷土料理」と説明する。
県内の多くの家庭では、鏡餅の飾りに用いられる吊るし柿を年が明けてから刻み、おせちの紅白なますに加えていたらしい。
「なますのさっぱりとした風味に、渋柿の独特の甘味がいいアクセントを出す」という。

柿なます以外に「干し柿の天ぷら」なども編み出した先人に、「調味料がなくても工夫し、おいしい料理を作ってきた昔の人は偉かったんですね」と田中校長。「家族そろって新年をお祝いしながら食べたい料理です」と話した。

新年を迎える準備に欠かせない餅。関西風の雑煮といえば、白みそ仕立てに丸餅が入った具だくさんの雑煮だが、奈良は少し異なる。白みそ仕立てが主流ではあるが、大和雑煮の隣には、きな粉が入った小皿が用意される。焼いた丸餅が入った椀から箸で取り出し、きな粉につけて食べるのだ。

NPO法人「奈良の食文化研究会」の瀧川潔理事長(72)は、大和雑煮(きな粉雑煮)には「新年の豊作を願う人々の思いが込められている」と話す。奈良では昔から、稲穂の色に似たきな粉を雑煮に添えることで豊作の縁起を担いだり、きな粉を「金」に見立てて新年を祝ったという。
同研究会のメンバーで、「典型的な『大和のお母さん』」と周囲に評される上田邦子さん(77)は、おまれも育ちも川合町。自宅の雑煮は、岡山県出身の父親の影響ですまし仕立てだったが、隣には必ずきな粉を入れた小皿がセットでついてきたという。上田さんは「汁に落とした焼き餅が柔らかくてたまりませんね」と目を細めた。
研究会が作ってくれた大和雑煮を、記者も初めて食べてみた。白みそで煮込まれた焼き餅を椀から取り出し、そっときな粉につけて口に入れると、みそときな粉の甘さがうまく絡み合い、くせになるおいしさだ。「決して表舞台に出るような華やかさはないが、大切に守り伝えられてきたのが奈良の郷土料理」と話す上田さん。「各家庭によって味付けが変わる雑煮。我が家の味として、これからも丹精込めて作り続けていきたい」と笑顔を見せた。

家族が集まって「我が家の味」をともに楽しむ年末年始。先人が生活の中で編み出した知恵や願いが込められた郷土料理は、これからも脈々と伝えられていくだろう。

この連載は浜川太一が担当しました。