2015年12月10日(木)
3日間連載で、当会の郷土食が紹介されました。
大振りに切られたダイコンとサトイモの周りに、ニンジン、コンニャク、油揚げ、ゴボウ。うす味のとろみあるだしによる照りが、素朴な煮物に彩を添えている。奈良の1年を締めくくる「春日若宮おん祭」の期間中(15~18日)、祭りの「ごちそう料理」として食べられる「のっぺい」だ。
昭和58年開業の春日大社境内にある「春日荷茶屋」では約15年前から、祭期間中限定でのっぺいを販売。大振りの具材を材料ごとに分けて炊いたうす味の煮物だ。
茶屋の定番「万葉粥」を参拝者に作り続けてきた主任の杉井典子さん(63)らが、「途絶えつつある地域の食文化を後世に伝えたい」と提案したのが販売のきっかけ。「『のっぺいを食べてこそおん祭』と楽しみに来てくれるリピーターも多い」と杉井さんは笑顔を見せる。
「のっぺい」のほかに、「のっぺ」などの呼び方で東北や北陸地方にも伝わり、現在も親しまれているこの料理。由来は、平安時代末に始まった春日大社の摂社・若宮新宮の例祭「おん祭」にさかのぼる。奈良市餅飯殿町にある大宿所に、祭りに参勤する大勢の大和士が国中から集まった際「のっぺい汁」がふるまわれたのが始まりとされ、現在もおん祭の無事執行を祈願して行われる「大宿所祭」の日は、地元商店街が協力し、参列者にのっぺい汁を振舞っている。
NPO法人「奈良の食文化研究会」理事長で長年郷土料理を研究している瀧川潔さん(72)によると、奈良ののっぺいと他地域に伝わるのっぺの大きな違いは、「とろみにある」という。
東北や北陸では、かたくり粉や小麦粉を加えてとろみを出すが、奈良ののっぺいは「サトイモが煮崩れして自然にとろみが付く」のが特徴。さらに、奈良ののっぺいが精進料理でもある点も他との大きな違いだ。
大宿所祭では、大和士が狩りをした獲物を神に供える「懸鳥の儀」がある。瀧川さんは「もともとは他地域と同様に鶏肉なども使っていたと予想できるが、寺の隆盛に伴って肉食が忌避され、調理法が簡素化していったのだろう」と指摘する。それが、現在の奈良の「のっぺい」につながっているようだ。
研究会が作ったのっぺいを、試食させてもらった。薄味のだしで煮込まれた野菜は素材本来のうまみが味わえ、身体全体に染み渡る。大振りのサトイモでおなかもいっぱいになった。
おん祭に欠かせない「のっぺい」。春日荷茶屋では16日、17日の2日間、限定150食分を、万葉粥とともに販売(税別1400円)。素朴だがどこか懐かしい味に、連綿と受け継がれてきた古都・奈良の歴史情緒や、人々の暮らしぶりが垣間見える。
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